労働者には、退職の自由、職業選択の自由があります。
過去の判例では、「個人の転職の自由は最大限に保障されなければならないから、引き抜き行為のうち、単なる転職の勧誘にとどまるものは、違法とはいえない」としています。
しかし、その引き抜き行為の手段、態様が悪質な場合は話が別です。
引き抜きの説得の中で、「この会社は倒産しそうだ」などと真実に反する内容の誹謗中傷行為をおこなっていれば、それは不法行為(故意や過失によって損害を与えること)となる可能性があります。
また、元社員による大量の引き抜きなど常識的なレベルを超えている場合にも、損害賠償請求が認められた判例があります。
この裁判では、「その勧誘のあり方が会社の存立を危うくするような一斉かつ大量の従業員を対象とするもの」であり、幹部社員が「その地位および影響力を利用」し、会社の経営方針について批判するなどしたことを指摘。
その引き抜き行為は単なる転職の勧誘の範囲を逸脱し、常識的なレベルを超えた不公平な方法でおこなわれたとし、その引き抜きをおこなった幹部社員は雇用契約上の「誠実義務」に違反したものとして、債務不履行(契約上の義務を果たさなかった)責任または不法行為(故意や過失によって損害を与えた)責任を負うとしました。